[甘やかな現実]
先ほどから、苦しげな声が部屋に響いている。
床に敷かれた毛布の間で、ザックスが悪夢を見ているようだ。
セフィロスがそれに気付いてから暫く、彼の苦しみは止まない。
起こした方がいいのだろうか。
一際大きな唸り声が聞こえて、セフィロスが身を起こそうとしかけたその時、彼は自ら目を開けた。
荒い息遣いが暗闇に満ちる。
ザックスはセフィロスの寝ているベッドを流し見てから、そっと部屋を出る。
明かりは点けず、台所へ向かう。セフィロスが後をつけてきたことには気付かない。
冷蔵庫を開け、缶を取り出す。
プルタブを外す音が、少し距離を置いた場所に潜むセフィロスまで聞こえる。
喉を刺激する炭酸飲料に口をつける。
一拍も置かずに腹に流し込む。
冷蔵庫の独特な明かりに浮かされた、反り返った喉が規則的に動く様をセフィロスは見つめる。
長い息を吐き、缶を流しに放った。
同時に、セフィロスも足音を殺して寝室へ戻る。
ベッドに潜り込む。何故か胸が逸った。逞しい首と、上下する喉が脳裏に焼きついている。
間を置かずザックスが部屋へ入ってくる。
一瞬躊躇して、ベッドの方に近づいてきた。
暗闇を味方に、セフィロスは目を開けたままでいる。
そっと、髪と頬に触れられる。思案するように手を止めて、再び床に戻って行った。
ザックスの穏やかな寝息が聞こえ始めても、まだ胸の鼓動は元に戻らない。