日差しを受けてぽかぽかと暖かくなる黒髪を持つ友人を、少し羨ましいとおもった。
冬になると、冷気に紛れて消えてしまいそうだと、どこか儚いのだと金髪の彼に言われて、歯痒い思いをした。
あたたかいのは彼だけなのだ。



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大きな樹だ。
神羅カンパニー本社内の休憩室で、セフィロスは紙コップ片手にかすかに目を細めた。
真ん中に植えつけられた、一年中緑の葉をつけるこの大木は、常緑樹ではない種のもののはず。
どこかの部署が何らかの目的で開発した技術が使われていることは想像がついたが、それがどんな仕組みのものなのかは知らなかった。
室内は緑の葉を映したような淡い色彩が満ちている。緑の影だ。
樹木の傍のテーブルについているセフィロスの、ほとんど白に近い銀髪は、漏れなく薄い緑色に染まっていた。
紙コップの中で微かな湯気を昇らせているコーヒーは、本日四杯目。
セルフサービスのコーヒーを注いで椅子に座り、ぼんやりとしているうちにそれは冷め切ってしまっていた。気付いては淹れなおし、またその存在を忘れる。そんなことをセフィロスは繰り返している。
セフィロスは今日の早朝、久々の実戦任務から帰還したばかりだった。
同じ任務に就いていた者は今頃ベッドの中だろう。今が真昼とはいえ、彼はきっと夢の中。
報告書云々の提出期限はいつもより長めに設定されているし、自分だとて自室で休息すべきだとセフィロスもわかってはいた。
眠れない。
かといって、仕事が手につく状態でもない。特にやりたいとも思わない。
現地で軽くシャワーを浴びただけで、戦闘服すら脱いでいないセフィロスは、傍らに置いた長刀と共にこの休憩室で随分浮いていた。
彼の戦功はとっくに社内中に伝わっている。しかし、フロアに集まった社員達は特にセフィロスに目を遣ることはなかった。
『浮いている』というのは、存在感がなさすぎるという意味だ。数時間前まで長刀正宗を振り回していた英雄は、今は生気の抜け落ちた顔を僅かに傾けて大人しくしている。
とうとう四杯目のコーヒーの湯気が立ち消えた。元より大して美味しくもないインスタントコーヒーを、冷めた状態で味わう気もなかった。部屋に帰ればもう少しまともな飲み物がいくらでもあるだろう。しかし立ち上がることができない。




不在の部屋の主を求めて社内中を探し回っていたクラウドが漸く彼を見つけたのは、ちょうどその頃だった。
飲むでもなく紙コップを握り締めているセフィロスの後ろ姿に、一瞬彼だと気付かなかった。
フロアに入ってすぐ視界の端に映りこんだ薄緑の髪が珍しくて、なんとなく視線を向けてみただけだった。
それが異常なほど長くて、隣りにはこれも異常なほど長い刀。そうしてやっと合点がいった。

「こんなとこで何してるんだ」
部屋まで行ったのに、と呆れて言うと、彼は背後に立ったクラウドを振り向いて「じってしていられなくて、」と淡々と言った。
じっとしてるじゃん、と返しつつ、セフィロスがすっかりこの席に根を下ろしているのを見て取ったクラウドは自らもコーヒーを隅のカウンターから貰ってくる。
セフィロスの左隣に腰を下ろすと、2人の間に境界線を引くように置かれた正宗を取り上げて逆側に除けた。彼の愛刀に気安く触れることの出来る人間はそう多くない。
「・・・なんかあったの」
「いや」
別に変わったことはなにもなかった。事実今回のは大きな仕事だったが、セフィロスはそつなくこなしたし、隊員とのいざこざも上司とのトラブルもなかったに等しい。
そう説明されて、クラウドもセフィロスが隠し事をしているとは思わなかった。が、それにしてもなにかがおかしかった。
同じように口をつけることなく紙コップを握ったまま、ふと、目元を和らげた。
「あんた、疲れてるんだよ」
思い掛けなく優しい声色で囁かれて、セフィロスは少々面喰う。今言ったとおり任務は完璧で、己の負担になるようなことはなかったと返せば、クラウドはふうと溜め息を吐く。
「そうじゃなくて、あんた疲れてんだ」
「そうか?」
「いやー、まー多分。そんなかんじ。今もなんかそれで光合成してるみたい」
光合成か、と再び頭上を見上げる。クラウドもそれに倣って、そしてつまらなそうに呟いた。
「年がら年中茂ってる樹ってわざとらしいな。これどうなってんの?」
「・・・さぁ・・・どこかの科学者の産物か・・・・よく知らない」
「そっか」
どうでもいいけどと言を次いで、クラウドは緑に染まったセフィロスの髪を一房取り上げ自分の髪に絡ませた。
「光合成、って感じ?」
ふはっと笑ったクラウドの髪は、確かに真昼の太陽の光のようで、セフィロスはやっとその顔に表情らしきものを蘇らせた。

なにもない日だ、とセフィロスは思った。
今日はなにもしなくていい日で、自分はとても暇なだけなのだ。

「なんか食べに行かない」
そう言っておもむろに立ち上がったクラウドを、片手で制して、彼のコーヒーを掠め取る。
まだ温かいそれは、空腹感を自覚させるに十分なものだった。
クラウドに差し出された正宗を受け取って、漸く頬が、少し緩んだ。





end






































































































































至って単純。既に恋人同士かまだお互いの気持ちに気付いてもいないか。どっちだとおもいます?(無責任
とても楽しく書けました。一気に書いたんで誤字すごいかも