本日早番のクラウドは、出来る限り足音を殺してセフィロスの部屋へ向かった。
エレベーターを降りてから玄関まで歩き、貰ったカードキーを使い、寝室に辿り着くまで道のりをクラウドは決して気を抜くことなく通過する。
慎重に扉を開くと、セフィロスはちゃんと眠っていた。今日も起こさなかったぞ、とクラウドは心の中で眠る彼に話しかける。

普通はどんなに気配を消したところで、他人の気配に敏いこの男のテリトリーに無断で侵入すればたちまち気付かれてしまうのだけど。それでも確かに彼は自分を前にしていまだ夢の中だ。
無防備なセフィロスを見下ろす。クラウドにはそれがちょっと誇らしい。

金色のリボンを青いシールで留めただけの、包装紙も何も無い四角い箱を、クラウドはそっと枕元に置いた。
今日の贈り物は、真っ白いセーターだ。
ゆったりとしたタートルネックで、指先まで隠れるほど袖が長いデザイン。裾も足の付け根まで覆うくらいたっぷりしている。LLサイズだから腰まわりが少しあまるかもしれないけど、きっと似合うだろう。

クラウドはこうやってたまにセフィロスにサプライズプレゼントをする。
きっかけは、初めて2人で迎えたクリスマスだった。 遊び心でサンタの真似をしてプレゼントを置いておいたら、セフィロスが思った以上の反応を示してくれたのだ。
12月25日の朝、ベッドに置かれていた見覚えのない箱を彼は爆弾でも解体するみたいに慎重に開けていた。
中から出てきた若草色のマフラーを膝に置いて、これが俗に言うサンタクロースのあれかクラウド、と真面目くさって訪ねてきたあの顔は忘れられない。 正面切って贈り物をするのはなんだか気恥ずかしくて自分のキャラじゃないし、ちょっと大げさだ。大して金が掛かっているわけでもない。
それに、セフィロスは「プレゼントだ」と手渡しされると喜びよりも戸惑いを滲ませた顔をする。「なんでだ」と問われて「街で見つけてなんとなくあんたに似合うと思った」と返しても、よくわからないのか微妙な顔をされるし。慣れていないのだ。
それにくらべて、こうして間接的に渡すとわりと喜ぶ。シーツの上にぺたりと座って、そわそわ包みを開ける様を想像するのも楽しい。次に会ったとき、これまたそわそわして礼なんだか感想なんだか曖昧なことを言ってくるのも好きだ。
誕生日を知らないぶん、クリスマスじゃなくたってこんなふうにプレゼントを贈られてもいいと思うのだ。

まぁオレがやりたいだけなんだけど。
クラウドは最後までセフィロスを起こすことなく部屋を出てからふっと笑ってそう思った。
今日は彼は非番らしいから、あれを見つけるのは昼近くになるだろう。自分の仕事が終わり次第ここへ戻って、彼の反応を見てやろうと考え自然頬が緩む。

とっくに目覚めて息を殺していたセフィロスが、クラウドが出て行くと同時に飛び起きてプレゼントを空けているなんて、彼は知りようもない。






end.