[悔み状]




いやな任務が立て続けにセフィロスとザックスの属する隊に当てられた。
反神羅組織の弾圧。
一貫性の無い、利己的な思想に囚われた者達の破壊的なテロ行為の制圧ならばまだしも、
その時の任務は、年端もいかぬ女子供をも対象とされた方針の定まらぬ『殺し』だった。


元々の原因は、生活を支える魔晄から齎された予期せぬ事件であり、
それはその村の巫女とも言える神聖な役割を担っていた18の娘を死に追い遣った。
突如許容量を超える魔晄が地下から湧き上がり、過度の負担を強いられた魔晄炉が爆発したのだ。
街外れの林の中に建てられていたそれが起した、幸い強大とまでは呼べない爆風は、偶々近くの神木に祈りを捧げてた巫女を巻き込んで、
皮肉にも冬のさなかには心地よくもある温風…爆風の名残を村に齎した。


悲嘆と責任追及の声に、困窮、そして些かの億劫さを感じた神羅カンパニーは、その『偶々』を利用した。
自社の魔晄炉は今回の事件が起こるまでは村の生活をより快適なものにするための役割を十二分に果たしていたし、
何より魔晄炉の周囲は人気の無い森に囲まれ、不用意に誰かが近付かない限り爆発の被害はなかったというのだ。


村人たちは、当然の如く激高した。
神羅の上辺を取り繕うような謝罪と新しい魔晄炉の建設の申し出を退け、そして、神羅を敵に回した。


彼らは亡き巫女を主潮に統治されていた宗教を信仰する周辺の村々をも喚起して反乱を起した。
そしてそれは、最初で最後の反乱となった。






今ザックスがいるのは、捕獲された、女と十歳以下の子供を纏めて置いた村外れである。
周囲は硝煙と焼け焦げた匂いで溢れ、先ほどまでの騒がしさは嘘のように消えていた。
敵将は――既に「処分」済みだ。
神羅軍の銃口をまともに受けて、彼等は口を噤み、上目遣いにこちらを睨んでいた。
神羅の力の象徴であるソルジャー、セフィロスが周りを見回して、戦場に似合わぬ落ち着いた口調で告げる。


「見ての通りだ。自らの罪状は理解しているものとする」


セフィロスの告示をきいて、ザックスは居た堪らない思いを感じた。そしてそんな甘さ―自分への―を叱咤した。
いつまでたっても慣れることのない、『後始末』。
その時、ザックスの前に膝をついていた聡明そうな女性が、顔を上げた。

「貴方たちこそ、自分達の罪状を理解していることでしょう。お互いに、言うべきことなどないはず。私達はここで終わります」

兵士たちは息を潜めて、セフィロスとその女の見詰め合いを見守っていた。


「為らば」 セフィロスの長剣が翻った。 「それに従おう」


刹那、正宗が風を斬る音と、連発した銃声が、あの森に響き渡った。












疲労した体をソファに投げ出し、懐かしさすら感じる自室の空気を胸一杯吸い込むに至り、
任務完了後沈黙を守っていたセフィロスが口を開いた。
「我々は、自分の生まれを自由に出来ない。望んだわけでもない生を突然与えられ、一方的な感情を少しずつ甘受し育っていく。
その事自体が不倖だとは謂わないが、始まりが他人から与えられるものなら、終わりは自分で選びたい」
彼にしては珍しい饒舌に、ザックスは一語一語を反芻しながら神妙に聴き入っていた。
「お前にとっての戦争とは何だ?」
思えばそれは、セフィロスからの初めての問いかけだった。
なのに、ザックスはそれに沈黙で答えてしまった。
戦争を語るには若すぎる歳だと思っていたのだ。しかし若さ故の愚行はその事ではなく、語るを由としない、それ自体だった。
セフィロスはいらえがないことを感知すると、そのまま寝室に戻っていった。






セフィロスは非番の日には、愛刀正宗の手入れをする。
それは正に『愛刀』へとくとくと注がれる愛情を具現化した行為だとザックスは思う。
染み付いた血脂を拭き取るというのではなく、塗り込めるような作業。
人間兵器と呼び名の高いセフィロスの、最も人間らしいあたたかな光景であり、同時にそう呼ばれる一因でもある。
敵という範疇に収められた者達に斬り付け斬り付けられ、死んでゆく同じ運命を持ったその男に、俺はそそぎそそがれてゆく。