傷を負い横たわるセフィロスの前で、クラウドは必死に言葉を紡いでいた―――――
 
 




 
[埋没アイロニー]


 
 



 
「友人と呼べる者がいたかどうか・・・・・・・もう覚えていない」
それも今となってはどうでもいいことだ、とセフィロスは薄く笑う。
「そんなこと・・ないよ・・・」
クラウドはそんなセフィロスを見ていて、胸が痛いような苦しい気持ちになる。
「俺は知ってる。あんたと同じ1.stだったジェネシス、アンジール。俺たち外野は任務中に亡くなったってだけ聞いてたけど・・・・・多分あんたは事情を知ってた。それなら俺たちは何も言わないでおこうって・・・一般兵の中ではそういう流れになったんだ、確か。・・・・・・それにザックス。あいつは俺と知り合うより前からあんたと仲が良かったって・・」
「クラウド」
なにかを耐えるような声で、セフィロスが遮った。
「それを思い出して何かが変わるのか?おまえだってこの数年間忘れていたこどだろう?オレはおまえと違って忘れたままだが、こうして生きている。懐かしさも失くしたことへの悲しみも勿論無い。なにか問題があるというのか?どうしておまえは今更そんな話をする・・・・・・・?」
「――――――だってあんた苦しそうだ」
「命に関わるとか、そういうことじゃない。失くしたままでもこうして生きてるけど、でもすごく辛いみたいだ・・・・。・・・・・・そんなんじゃ意味が無い・・・よ・・・・」
うまく伝わらない。思いを言葉に乗せられない。
クラウドはセフィロスの代わりにとでもいうかのように自分の眼から涙が零れそうになって、慌ててぎゅっと眼を瞑った。泣いてもこの気持ちは彼には絶対に伝わりはしない。それはもうわかっている。
中途半端に想いを察してもらおうとして、想う側のエゴで伝わらないもどかしさに勝手に憤慨していたあの頃とはもう違う。
今度は自分が彼を導いてやりたい。
たとえ彼が望んでいなくても、とクラウドは心の奥底で一人思う。彼を少しでも楽にしてやりたいと望むのが、ひとえに自分の幸福を考えた結果なのだとしても、とにかく彼を強く内包してしまいたかった。
「―――本当のこと言うと、アンジールたちのことをそのまま思い出して欲しいわけじゃ、ないんだ」
「よく・・・・わからない、クラウド。おまえはオレに・・・なにを教えたいんだ・・・・?」

「あんたが好きだ・・・・。まだ生きてるあんたの残りの時間が幸せであればいい。そして・・・・そこに俺以外の存在がいなければ、いい・・・・・・・」

「クラウド・・・・」
セフィロスの手が、クラウドに伸びる。
髪に向かって伸ばされたそれを、クラウドは自ら身じろいで頬に触れるよう仕向けた。冷たくも温かくもない指先が当たる。やわらかく微笑んで見せながら、朽ちかけたあんたには俺しかいないんだと暗示をかけるように強く念じる。
実際セフィロスは誰かがマテリアと薬の力を借りて治療しなければ回復は難しそうだった。・・・・・・・ただしそれは、”肉体”に限った話だが。セフィロスの精神は彼の意思に関係なく、少なくとも”最低限の”均等を保ったまま星に還ることを許されず存在し続けるのだろう。
この際・・・・しょうがないんだ。思い込みでもいいから、今度こそ逃がしはしまい。
 
クラウドがそう――――思った時だった。ただただ目の前の男の話を耳に入れているだけのように、まるで意思が無いように見える瞳をしていたセフィロスが、その輝く一対の虹彩をクラウドにひたりと据えた。
「――――ならば、オレもおまえを・・・・・・幸せにできるか?おまえがくれたものを返せるのか・・・・」
 
クラウドの知らず力の入っていた眼光が、ぐらりと揺れた。
そのまま瞳が潤うより先に、眼の縁から涙が零れ落ちた。
突然に歪んだ顔をセフィロスは呆然と見上げる。クラウドは抑え切れずセフィロスの胸に倒れ伏して慟哭した。
「・・・違うッ・・!ごめ・・ん・・・セフィロス・・・・!俺は・・・」
あんたがそんな言葉を返してくれるとは、考え付くほどに自分を認識しているとは・・・・・一欠けらだって頭になかった。
 
――――この人は、人間なんだ。俺と同じように……!
 
「どうして忘れてたんだろう・・・・・・・!」
止め処なく溢れる涙を止められない。そうだ。他の誰より自分こそが、セフィロスを人間扱いしていなかった・・・・・・。
「クラウド・・・?・・・・すまない、また・・・。やはりオレにはおまえたちの気持ちを察することなど出来るはずもない・・・・」
再び遠い目をしてしまったセフィロスに・・・・クラウドはあわてて顔を起こしてその頬を両手で持ち上げ叫んだ。
「忘れてたのは俺だ・・・・!あんたはどこも変わってなんかいなかった!ずっと昔から・・・!」
思い切り抱きしめた身体は、確かに温かく・・・・・・・・クラウドは涙が枯れるまで泣き続けた。
そしてセフィロスは困惑しながらも、泣きじゃくるクラウドの頭をそっと撫で続けた。遠い昔、失くしてしまった記憶の中にあったかもしれない無意識のその動作が、クラウドの心をどれほど慰めたか。そこまではセフィロスにはわからなかったけど。
 







end.













自分では、いつもと文章が違うと思っているのですが・・・どうだったでしょうか。言い回しとかほとんど気にせず好き勝手書いたというか だ、だめかなこんなの

クライシスコア、予告でもあったジェネシス&アンジールVSセフィロスのムービー辺りまでをプレイして、セフィロスってちゃんと人を信用したり友達を作ったり・・・ってことが出来たんだーと思って、でも無印FF7ではそれがほとんど感じられなかったのな、と。で、今まであえてスルーしてきたCC→無印の関連性を考えて書いてみました。コンピレーションはコンピレーション、無印は無印!でやってきてるので(笑)、こう・・・1度自分の納得いく形でクラセフィを書いてみよう、というか。そしたらなんだからすごく切なくなって泣けてきて、一晩でざかざか書きました。少しでも言いたいことが伝わったら嬉しいな。ここまで読んでくださって有難うございました! こんなにあとがき書いたの初めてだ・・・・