強い風が吹いていた。
斜め下から巻き上がるように吹いてくるその風は、しかしセフィロスには真上から圧し掛かってくるように感じられた。
それが地面にぶつかって、足元から跳ね返って己の髪を乱しているのだ。煽られた銀糸の一筋が口の中に入り込んで、大層不快だった。
右の頬を指で掻いた。しかし邪魔な異物は反対側から伸びているらしく、なんの手ごたえもなく違和感は口の中に在り続ける。
セフィロスの眼が不快に眇められた。
と、同じように激しく揺れている金髪が視界に入り込んできた。
自分より低い位置に、明るい青の双眼。その下の引き締められた口元が僅かに弧を描いてセフィロスに向けられている。
ついと伸ばされた指は、自分と違い皮手袋をはめていない無防備なものだった。のびやかな指が左の頬に近づき、戸惑うように一瞬引かれ、そしてまた近づいた。ゆっくりとした動きに反して、許可を得る必要はないとでも言うような無遠慮な動きでセフィロスの口の中の異物を取り払った。
その瞬間、あれほど執拗だった風がぴたりと止んだ。ゆっくりと髪が地に向かって納まってゆく。
もうクラウドは笑んではいなかった。
今度は両手が伸ばされ、両の頬を包み込んだ。伸びた爪が柔らかな皮膚を刺激する感覚。
薄っすらと開いた唇を、もう何ものも侵すことがないようにと言うみたく、クラウドの唇が噛み付くように蓋をしてくれた。
またいつ吹き出すともわからない風は、それでも二人の傍で音もなく燻っている。
しっかりとお互いの身体に腕を回す。不安が少しでも無くなる様に。眼を閉じても、クラウドは居なくならなかった。