[しつこく。]







危ねェなあ、とザックスは言った。


憧れてるんだ、小さなころから、雑誌の切り抜きを壁に貼ったりして、そのへんの棒切れを見よう見まねで振り回してもみた、やっぱりただの夢にはしておきたくなくて、故郷を飛び出して、初めて生で観たときゃ口から色々臓器とかが出そうになって、追いかけるんじゃなく、遠くから見つめてるだけなんかじゃなく、隣に立って、いや追い越すくらいに、強く、とにかく、
あの人の、


視界がぐるんぐるん廻るくらい酔ったその勢いで口から飛び出した誇張なんだか本心なんだか自分でもよくわからない言葉の、総合評価は「危ねェなあ」、らしい。


憧れているの。隠し撮り写真を高値で買っちゃった。伸ばした髪にストパーを掛けてみたり。姿を見るだけで胸がドキドキするわ。遠くから見つめてるだけじゃなく、あのお方の傍に居られたら。


社内で交わされる、女子社員たちの吐息交じりの噂話に。そっくりじゃねー?と苦笑い。

「ていうかむしろお前の方が、濃い」

そんなんじゃない、と返した声は我ながら情けなくなるほど弱弱しかった。・・・・・・そんなんじゃない。

ぐったりとアルコールの匂いが染み付いたバーのカウンターに頬をつけそれじゃーオレはホモじゃんかと吼えた瞬間、背後から予想もしない人物の声が降ってきた。


「仕事ほっぽってなにしてる」


噂の種が立っていた。


「い、いやー、こんなとこで、奇遇だな!」
「おまえの同僚にここだと聞いた。本日付の書類がまだ出ていないとオレが釘を刺されたんだが?」

俺の同僚はおまえの同僚でもあるだろ、と突っ込んだザックスをセフィロスは眉根を寄せたまま睨みつける。

「おまえがサボって怒られるのは勝手だがオレを巻き込むな」
「色々あんだよ〜。後輩の悩みを聞いたりとか」

な?と急に話の矛先を向けられて、カウンターに突っ伏したまま完全に固まっていたクラウドの肩がびくりと震えた。

「今度は部下を巻き込むか」

そのまま行ってしまうかと思いきや、セフィロスはなんとクラウドの隣りに腰を下ろした。彼が酒とつまみを注文し終えるまで、なんとなく二人とも黙りこくる。

運ばれてきた酒に口をつけて、セフィロスはふぅと一息ついた。

「・・・あんまり振り回されるなよ、クラウド」
「・・・へ?」
「お」

一瞬の沈黙。

「おまえ、コイツの名前覚えたの。めずらしいじゃん」

ようやく身体を起こしたクラウドの、見開かれた瞳が心なしかキラキラしているように見える。


「・・・・お嬢さんたちの望みが叶う確率は悲しきかな0%だろうけど、」
「おまえんはどうなのかね?」


そうぽつりと零したザックスはセフィロスにさっさと仕事に戻れよと一蹴されていた。

(頼むからどうか二人きりにしないでくれ)

手のひらに張り付いたように離れないグラスを睨みながら、クラウドは信じてもいない神に縋るように祈った。






end.