[ただいま。]









その日は厭味なくらいあったかくて気持ちのいい日で、
一度目を閉じたらもう再び起き上がることなんて出来なくて、
俺はセフィロスの部屋の居間でぐっすり寝てしまった。

仕事から帰ってきたセフィロスは、食卓に突っ伏している俺を見つけていやっそーに眉を顰めた。
ドアの開く音で目覚めていた俺は、その顔を目ぼけ眼で捉えて思わず笑ってしまう。
「セフィロスー、おかえりー」
「人の机を汚すな」
なんだよーただいまくらい言えよーとぼやいたが、知らず垂れていた涎に気付いて、納得。
「ごめん」
ここ窓大きいからあったかくて、と言い訳すると、セフィロスはオレの部屋のせいか、と呆れたように言って重そうなコートを脱いだ。
すかさず駆け寄りコートを受け取る。わざわざハンガーに掛ける俺を見て、セフィロスは複雑そうな顔をする。
俺がやんなきゃお前そのへんに放るからと言ってやると、何も言ってないだろうと返された。口に出してないだけだろ。
「腹減ってない?俺ペコペコ」
「玄関からいい匂いがしてた」
「んー。一緒に食べようとおもって」
作っといた、と言うと、セフィロスの瞳が心持ち緩んだように見えた。
「外で食べてきちゃってないよな?」
セフィロスはいや、と首を振る。よかった、とほっと息を吐いて、既に用意しておいた料理を冷蔵庫から出して運んでくる。
「ここ来る直前に市場で買った材料だから、新鮮だぜ」
俺は台所に戻り、セフィロスはいそいそと洗面所へ行った。あの後姿から察するに、彼も相当腹を空かせていたらしい。それとも俺の料理を見たせいか。そうだったらとても嬉しい。
手を洗い終えたセフィロスが、椅子に座りかけて、ちょっと逡巡してから台所に入ってきた。
「手伝う」
「お、サンキュ。じゃあグラスとフォークお願い」
「わかった」
ごく自然に応対したが、実はこの申し出はめちゃくちゃ嬉しい。最初の頃を考えると物凄い進歩だ。
たった今炒った小エビをフライパンから直接サラダに落とし、最後の仕上げに粒胡椒を振り掛ける。南瓜の冷製スープには刻んだイタリアンパセリを。メインのラタトュイユにパンを添えて食卓に配置する。
最後にセフィロスが用意したグラスにレモンを絞った炭酸水を注いで、既に食べる準備は万全のセフィロスの前に腰掛ける。
「いただきます」
俺が両手を合わせると、セフィロスもそれに倣う。黒のタートルネックに着替えたセフィロスの、夕日を受けた銀髪が何故だか更に食欲を起こさせる。
先にフォークを手に取ったセフィロスが次々に料理を口に運んでいく。セフィロスは激しい任務より、デスクワークの後のほうがよっぽと食べる。戦闘に入ると暫くは食欲のことなど忘れてしまうのだろうか。兎も角、俺としては今セフィロスが俺の作った料理をたくさん食べてくれることが嬉しい。
さっきから俺、嬉しいって思ってばっかりだ。
料理が半分ほど減ったところで、セフィロスがグラスを取って俺を見た。
「いつからいたんだ?」
「昼過ぎかな。今日早いって聞いてたから、ちょっと急いだ」
「寝てたじゃないか」
「でも間に合っただろ充分。ってかまだ6時じゃん。まじでセフィ早かったな」
「任務で溜まった書類なんかは、クラウドが片付けたから」
あ、と呟いて、セフィロスがグラスを机に落とすように置いた。フォークが下敷きになったせいで結構派手な音がした。
「そうか。クラウドだ」
「は・・・?なに?」
「忘れてた」
セフィロスはガタンと椅子から立ち上がって居間を出ていった。
玄関を開けると音がして、暫くして居間の戸が開いた。
困ったような顔をしたセフィロスと、なんとクラウドが入ってきた。ものすごく怒った顔をしている。
「・・・締め出された」
「忘れてたんだ」
「おまえ、もしかしてずっと外にいたの?」
心底驚いて、憮然としてセフィロスの髪を一房握り締めたクラウドに問いかけると、大きく頷いてみせる。何故か俺まで睨まれてる。
「仕事を手伝ってもらっていて、そのまま」
「着いてきたら嗅覚のいいこの人に玄関で締め出された」
一拍置きにセフィロスの髪をぴんと引っ張っているクラウドはほんとに怒っているみたいだった。当然だ。俺がクラウドの立場なら軽く殴るくらいはする。
セフィロスもさすがにばつが悪いのか、されるがままだ。
「セフィ、よっぽどお腹空いてたんだな」
「よっぽどお腹空いてたんだなじゃねぇよ」
この一般兵こわい。
「なんでこの部屋チャイムついてないんだよ」
「・・・・ノックすればよかっただろう」
「したよ。したけどあんたらが気付かなかったんだろ」
「まじか」
ほんとに気付かなかった。
「まぁ、まだ料理あるから一緒に食べようぜ。ほらセフィ、謝れ。クラウドも髪引っ張るのやめてやれ」
セフィロスが逆切れする前に、と心の中で付け足して、俺は台所へクラウドの分の皿を取りに行く。
セフィロスは一つのことに集中すると周りが見えなくなることがあるのは知っていたが、それは戦闘に限ったことじゃないらしい。
戦闘に関していうなら、その凄まじい集中力は羨ましいくらいだが。

それにしても、あいつらあんなに仲良かったっけ。














たまにはこんな日も。クラウドかわいそーだけど