[まにまに]









目を覚ますと、広いベッドに一人きりだった。
手のひらで毛布の内側を辿って隣を探ると、シーツがすっかり冷たくなっていて、セフィロスがとっくに仕事に出かけたことがわかった。
身を捩って窓の方を向くと差し込む日差しをまともにくらって一瞬目を開けられなくなる。
これは昼を過ぎてるなと、いくらなんでも寝すぎた自分にちょっと呆れた。
ましてここは他人の家の、他人のベッドの、他人の枕だというのに。自分が思うより身体は疲れていたのかもしれない。
最後に二人の休暇が重なった十数日前のあの日から数えて、今日は初めての非番の日だった。
普段の訓練に加えて、社内警備に顔も知らない上司の残した書類整理と、ここのところ忙しい日が続いたからだと思う。いつもなら休日だって目覚ましなしで起きられる自信があるのに。
セフィロスはあれから連日仕事で、今日もしっかり出勤した。俺が今日休みだという勝手な理由で昨夜は遅くまで付き合わせてしまったから、見送りくらいはしようと思っていたのに。ついため息が漏れる。
反省しつつも、ベッドから出る気にはならなかった。長時間寝たわりに頭痛はしないし、毛布は暖かいし、ともすれば二度寝してしまいそうだ。
ベッドの中でごろごろしていると、玄関の鍵が開く音がした。
セフィロスが帰ってきたんだろう。早かったな、と思うと同時に、やばいとも思った。
さすがにいつまで寝てるんだと怒られるかもしれない。一応相手は上司だし。
でも今から飛び起きて服を着て・・・なんて慌てる方がかっこわるい気がする。ふと思いついて、再び仰向けになって目を閉じた。
寝室の前で、セフィロスが俺の名前を何度か呼ぶ。返事をしないでいると、そっとドアを開ける気配がした。
「・・・・まだ寝てるのか」
案の定驚いたような、呆れたような溜息が聞こえてくる。
ゆっくり近づいてくる疲れた足取りに、今すぐ起き上がって「ただいま」と言ってやりたい衝動に駆られるけど、なんとか我慢する。
ベッドの縁に腰掛けたのか、身体がセフィロスの方に少し傾いた。
ちょうど日差しが顔面に照っているので視界が真っ赤だ。目蓋がピクピク動きそうになるのを必死でこらえて寝たフリを続ける。

眩しいのを覚悟の上でこの姿勢をとったのは、そのほうがやりやすいと思ったのだ。つまりは、セフィロスからの秘密の口づけが。

・・・・・ないなそれは、と心の中で理性的に考えつつも、その実ちょっと期待している。見えなくてもセフィロスの視線が俺の寝顔に注がれているのはわかった。なんとなくドキドキする。
それにしても、伝説のソルジャー相手に寝たフリなんて無理があるんじゃないかと今更ながらに思った。死んだふりよりはバレにくいだろうけど。
不意に、ベッドがぎしりと軋んだ。シーツの擦れる音がして、腕の真横にセフィロスの体重がかかる。
うそ、と内心かなり驚いた。次いで長い髪が首に触れる感触。くすぐったさに小さく喉がなった。
胸の上に、手のひらを這わされる。固まっていると、左胸の辺りで、手が止まった。ぴくり、と彼の手が反射的に浮く。

ああ、失敗だ。俺はめちゃくちゃ恥ずかしくなった。寝ている人間は、こんなに速い鼓動は、してない。

観念して目を開けると、セフィロスが耳を下にして俺の胸に頭を凭せ掛けたところだった。
セフィロスは顔をこちらに向けていて、いやに近い。また心臓が跳ねたけど、セフィロスは目を閉じていたので情けなくなっているだろう顔は見られずにすんだ。
俺が起きていることはバレていて、それでもセフィロスは無言のまま浅い呼吸を繰り返してる。下手に動けなくて、横目で見たセフィロスの身体は中途半端にベッドに上がっていて決して楽な姿勢には見えなかった。いつもの黒のコートも、サスペンダーも着けたままだ。
俺の視線に気付いていないわけがないのに、セフィロスはそのまま眠ってしまったようだった。
心拍数が平常に戻っていく。おつかれさま、と心の中で呟いて、子守唄代わりの俺の心臓が、どうか今は止まらないようにと、祈りながら目を閉じた。いきなり止まれというほうが無理な話なのだけど。








end.








この二人まだ付き合ってもいません。
例によってタイトルに意味なし。漢字で書くと「随に」。まにまに。響きが可愛いじゃないですか・・・。