[タナボタ]






クラウドってチョコレート貰ったことないらしいぜ。



そう言ったザックスは、からかいよりも不憫さを滲ませた顔で「かなしいよなァ男として」としんみり続けた。

甘いものを食べ慣れない男たちにとって、チョコ即ちバレンタイン、だ。その認識は世俗に疎いセフィロスにも適応されていた。
セフィロスにとって、2月14日は山ほどチョコレートが届く日。中には花とかアクセサリーも無いではないが、大半は茶色くて甘い匂いのするそれだった。
民衆から届いた物は1度危機管理部を通ってから、手作りのもの以外が英雄の元へ送り届けられる。
甘いものは嫌いではないがそれほど量を食べるわけでもないので毎年てきとうに社で処理してもらうのだが、中にはとてもおいしいものもあったりして、2月14日は一年の中でわりといい日だと思っている。

ザックスからそのことを聞いて、セフィロスは深く考えず(彼にとっては考えても思いつきようがない)、フライングで送られてきたチョコの小山を抱えつつクラウド本人に「どうして貰えないんだ?」と大真面目に訊いた。
オレの故郷では義理チョコってものが存在しなかったからだと抑揚のない声で言ったクラウドの後姿は、事情を察せられないセフィロスにすら哀愁漂って見えた。

よくわからないが、貰ったことがないなら、あげればいい。

パン屑よろしくチョコの入った箱を通路に点々と零しながら、セフィロスはそう思った。




「おまえクラウドにあの事直接言ったんだって?」
2月13日、ザックスがわざわざセフィロスの執務室に乗り込んできた。
「なにを」
「チョコがなんたらって話だよ」
「ああ、言ったが」
「・・・・・おっまえなあ〜・・・!」
はぁぁぁと深々と息を吐いて机に両手をついたザックスは、半ば怒ったようにじとりとセフィロスを見上げた。
「バレンタインが近づくごとに暗くなってんぞあいつ・・・・」
「大丈夫だ」
「ああ?」
「よくわからんが、要はチョコレートが貰えればいいんだろう?」
フン、と腕を組んだセフィロスはどこか楽しそうだった。




バレンタイン当日。昼食を後回しにして一般兵の訓練所に赴いたセフィロスは、休憩所にぼんやり座っていたクラウドにリボンの掛かった箱を差し出した。
「え・・・・・・お裾分け?」
当然の反応である。嫌そうに可愛らしい包みを凝視する。
「おまえにだ。中身はチョコレートだ」
セフィロスはスカーレットにおすすめの店とかいうのを聞いて買ったと呟く。

クラウドは、自分の周りの世界がぶわわっと薔薇色になった気がした。

チョコを受け取る両手がつい慎重な動きになる。
「・・・・オレ・・・まさかセフィロスに貰えるとは思わなかったよ・・・・」
「そうか」
クラウドはチョコを膝に置いて背筋を伸ばし、ほっとしたように小さな笑みを浮かべているセフィロスの手を取って言った。
「オレも、セフィロスが好きだ」
「そうか」
ん?とセフィロスは返事をしてから思った。
「セフィロスからアプローチしてもらえるなんて、すごく嬉しい」
至近距離で微笑むクラウドに、セフィロスは胸が疼くような感覚をなんとなく覚えた。
「ああ、たぶんオレもそうだ・・・・・。・・・・・・・??」

今日二人になにかが起きる、とクラウドを張っていたザックスは、休憩所の外で1人胡坐をかいてなんだかなぁと心の中で呟いた。





end.




・・・・・・なんだかなぁ。
確信犯か、セフィロス?