[ ぼた餅の賞味期限は意外と長いらしい ]








去年のバレンタインに、ちょっとした誤解からセフィロスはクラウドにチョコをあげた。
本人にその意図はなかっただろうけど、二人はそれからお付き合いというやつをしているらしい。最初はクラウドが暴走した上にセフィロスがまた訳のわからない好奇心を出した挙句始まった、もって精精一ヶ月の間柄だろうと軽く考えていたんだが、予想に反して二人の仲は長く続いている。俺は見たことはないが、神羅兵の間ではセフィロスが妙に気安い雰囲気で男と肩を並べて歩いていたとか不意打ちのように唇を奪われてしかも嫌がらず受け入れていたのに出くわしただとか嘘か本当かはたまた脚色混じりかわからないピンク色の噂が少なからず飛び交っていて、事情を知っている俺としてはなんともコメントし辛い状況だ。
まぁ偶の休日でも部屋で刀磨いてるか寝てるかしかしないんじゃないかというセフィロスが外の世界や人との密接な係わり合いに興味を向けたことは喜ばしいことだと思うし、どこか内側に篭って実力を発揮しきれないようなクラウドが理想や幻想の殻を破って憧れの英雄と生の付き合いをしていることも良いことだと思う。
・・・なんか二人の関係を考えると『生』の付き合いってちょっとやらしいな。・・・・・と、とにかく。良いことだとは思うのだが、別にその関わり方が、男女間で交わされるような付き合いでなくても良かったんじゃないかと俺なんかは思ってしまうのだ。男と、男が。なんで。そりゃ兵隊なんてやってるから稀にそういう性趣向の方もお見かけするけど、そういうに嫌悪感を抱かない代わりに所詮自分とは縁遠い世界だと思っていた。だって俺女の子好きだもん。可愛い子も美人の子も、ちょっとキツそうな子から一緒に居て癒されるような子まで、守備範囲は広いとはいえとりあえず前提として相手は女だった。柔らかい身体やら仕組みはわからんけど常に漂わせている優しい香りやら甘えるような上目遣いまで、あー想像するだけで・・・・やっぱ女の子って良いよなぁ。理屈じゃない。
・・・・・そりゃ、顔で言えばクラウドはまだ幼いながらも中々の男前だし、セフィロスは最高レベルの美人だろう。お仕事の後の血生臭い時を除けば同じ男の俺でも時々うんざりする野朗特有の臭いも何でだか全然しないし・・・・・あれはマジでなんなんだろうな。英雄ってそんなとこから造りが違うのか。無味無臭って言うか・・・いや俺はセフィロスの味なんて断じて知らないけど!



「セフィロス!」
後ろから大声で呼ばれた。声からクラウドだということは分かったけど、それがいつもの調子とは全然違うせいで振り向くまで信じられなかった。
でもセフィロスと二人揃って振り向いた先にはやっぱりクラウドが居て。小走りでこちらに向かってくる。
「よお、クラウド。なんか今日テンション高いな」
「そうか?あのさセフィロス、今度の週末のことなんだけど」
俺には一声かけただけですぐセフィロスに向き直る。こんにゃろと思ったけど、セフィロスまで機嫌良さそうに応じるから文句を言うタイミングを見失ってしまった。
「クラウドが行きたいところでいい」
「それじゃ意味ないだろ。セフィロスの希望も聞かなきゃと思って」
「同じことだ」
「・・・・そう?じゃあこっちで決めとくな。その服で来るなよ、目立つから」
「わかっている」
なんか俺にはわかんない会話し始めるし。いや、要は次の休日一緒に出かける打ち合わせなんだろうけど、セフィロス絡みだとすごい違和感がある。
休憩時間だったらしく、別れの挨拶もそこそこに慌てて戻っていったクラウドを見送って、俺はセフィロスの肩を小突いた。微動だにせず何だと目線で返される。
「デートですねー」
「・・・・・・」
あーあこれが女の子ならちょっと恥ずかしげに頬を膨らませてからかわないでよばかっ!なんて反応も期待できたんだろうか。しかし目の前の相手は男なのでそんなもんは期待できるはずもなく、腕を組んで考え込み始めてしまった。
「照れんなよ」
「照れてはいないが」
「知ってる。言ってみただけ」
「なんなんだ・・・」

「セフィロス!」

仕事に戻ったはずのクラウドが駆けて来た。忘れもんか、と声を掛けようとして、口を開いたところで凍りつく。クラウドがセフィロスの襟ぐりを引っ張って唇を奪ったのだ。
ちゅ、と軽いリップ音が静かな廊下に響く。セフィロスを解放したクラウドはやたらいい顔といい声で困ったように笑った。
「・・・・ゴメン」
ちょっと小首を傾げて小さく謝罪するクラウドに凍りついた思考が戻ってくる。俺初めてイーゲーのキスシーン見せられちゃったよあはぁぁあん!!
「あ、謝るならするなよ!!」
「なんでザックスが・・・おまえは俺の恋人かよ」
「ちげェよ!!」
「別れ際にキスって約束なんだよ」
「別に聞いてねえよ!!」
「誰もいなかったんだからいいだろ」
「俺がいたよ!!」
「クラウド、戻らなくていいのか?」
ある意味場違いな冷静な声に制されて、そちらを向く。目に飛び込んできたセフィロスの表情、柔らかい目元に、眠る寸前脳内に流れる短い旋律が聞こえたような気がした。
「全回復ッ!行ってきます!」
俺と同様の現象に見舞われたらしいクラウドは足取りも軽く元来た道を戻っていった。

残された俺達は(心境的には俺一人取り残された感じだが)なんとなく顔を見合わせた。その表情を見て、あぁ、と俺は思った。
こいつも結構余裕ないんだ。
ぽんぽんと頭を撫でてやると、なんだと鬱陶しそうに払いのけられる。
「襟、乱れてるぞ」
片方立ち上がってしまっている襟を指して言うと慌てて直し始める。それを視界の端で見守りながら、溜め息一つ、俺は決心した。


俺も早いとこ恋人作ろう! ・・・・女の!






end.