[ 夢見るリーベ ]







年内の課題をやっと終わらせて、相次いだ年末恒例の飲み会もひと段落した12月も下旬、久しぶりに友人に会いに行った。
一人暮らしのアパートは狭いながらも居心地がよく、大学から近いこともあってよくお邪魔させてもらっている。今日も手土産の酒とつまみを引っさげてだらだらさせてもらおうかと扉を叩いた。インターホンなんて高尚なもんはついてないからな。築十年以上でボロいし壁も薄いけど、お隣さんは昼バイト夜学校の苦学生らしいのでいつも静かなのは羨ましい。


「お邪魔しま〜す」
大股三歩で台所兼居間に辿り着くと、部屋の主であるクラウドがこちらに背を向けて炬燵に座っていた。
振り返りもせず「あー」と気の無い返事を返すクラウドに「おー」と応じる。いつもながらどこか覇気がないというか、落ち着いているというか、俯き気味に手元の作業に勤しんでいる。まぁ四六時中溌剌としてるクラウドなんて想像もつかないし別にいいんだが。しかし今日が何の日か知っているのかおまえは・・・と思ったところで、先客に気付いた。
クラウドの対面、炬燵の一角に、同じ大学で同学年のセフィロスがいた。
「・・・・・・ほんとにお邪魔だった?」
「バカ」
半ば本気で言ったんだけど一蹴される。
クラウドは大学一年で、俺たちは三年。元より接点がない上に必要最低限の交友関係しか築かないこいつと頻繁に接触しているクラウドは、つまりはそういう仲らしいから、遠慮してみせてやったというのに。
「いつからいるんだ?」
一先ず冷蔵庫に持ってきた食料を入れて戻ってきた俺は、炬燵に潜り込んで横になっているセフィロスを上から覗いた。よく寝ている。眼前に散る銀髪が時折寝息を受けて震える以外はなんの動きもなく、熟睡していることがわかった。
「えっと・・・一昨日からかな」
相変わらず卓上から眼を放すことなく定規で線を引っ張ったり消しゴムをかけたりしているクラウドがそっけなく答える。一昨日って、居続けすか。
自分の境遇との差に思わず溜め息が零れる。炬燵の半分を占拠しているセフィロスを蹴らないよう気をつけつつ俺も暖かい炬燵布団を被り、隅に追いやられた原稿用紙の一枚を摘み上げる。
「なんっだよ、俺は一人寂しくクリスマスってるっつーのに」
「それまだインク乾いてないからな! ・・・・クリスマスね、大晦日には帰ってくるんだろ」
一瞬眼光鋭く俺を睨み、また作業に戻る。人事だと思って、後半はおざなりだ。
言っておくが俺には彼女がいる。本来クリスマスイヴである今日を共に過ごせる可愛い女の子がな。
今年は勝手が違っただけだ。彼女が園芸植物の品種改良を専門に扱っている研究所に行くという名目で、俺を置いて友達と海外旅行に行っちまったのだ。
「一緒に行った子、ティファちゃんだったか、クラウドの知り合いなんだっけ?」
「幼馴染だ。最近忙しくて会ってないけど・・・」
「とか言って、ちゃんと連絡は取ってんじゃん」
エアリスに写真でしか見せてもらったことはないが、かなりの美人さんだったはずだ。怒られないよう生乾きのインクに注意を払って原稿を眺める。そうそう、ちょうどこれに描いてあるような黒髪長髪、はにかんだ笑みが意外と子供っぽい感じの。二次元と三次元だから酷似しちゃいないが、・・・・・・・・・・・・ほんとに似てるな、この絵の子と。おぉいクラウド・・・。
若干引きつつ顔を上げると、不思議そうに俺を見る視線とぶつかった。
「連絡なんて・・・・・旅行のことはセフィロスから聞いたんだよ。父親が一緒に行ってるから・・・知ってるよな?」
「なにそれ!? 父親ってセフィロスの? あの博士号持ってるなんとか博士?」
「知らないのかよ。エアリスが見学したがってた研究所にアポ取ったのもあの人らしいぞ」
何ソレ全然知らなかった。そういやエアリスが二三日教授だか博士だかと同行するとは言ってたような・・・気もするな。でも旅行前に彼女がした話はその国の名所やら歴史やら言語にほぼ終始していたから頭に残っていなかったんだ。
炬燵から出した両手を組んで熟考する。セフィロスから少し聞いた話では、彼の父親はなかなかにエキセントリックな人物だったと思う。その方面ではかなり有名らしく、実績もあるのだが、根っからの研究オタクが過ぎて実の息子からの評価はあまり高くない。
「向こうに博士の知り合いもいるらしくて、会ってくるついでに二人の引率も引き受けたって。そっちは植物じゃなくて遺伝子の改良・・改造?の研究者らしいけど」
「・・・だいじょうぶなのか、それ」
女の子の割りに(というとエアリスは怒るんだが)たくましいとはいえ、彼女達にとって初の海外旅行だ。付き添いがそんなんで取って食われやしないだろうかと彼氏である俺としてはかなり心配になってくる・・・・・隣りで爆睡してる友人の父親に対してこんな風に思うのは悪いんだが・・・・。
「いや、セフィロスが聞いたら諸手を上げて賛同するだろうな」
それもどうかと。
「大丈夫だろ、その為の人質でもあるし」
さらりと物騒な単語を吐いたクラウドに眉が寄る。人質て、それセフィロスのこと?
「向こうが二人を無事送り届けなきゃ、こっちも大事な息子を返さないまでだ」
頭上に八分音符を浮かべてそうな声色で、しかし言ってる台詞は犯罪者みたいだぞ。プラス手元では紙面に美少女を描き続け、炬燵布団に隠された足元では(おそらくセフィロスの先ほどからの微動から察するに)男の身体を突っついて遊んでいるその姿は、童顔気味の端正な顔をもってしても補い切れない怪しさだ。

「さて」
俺が向けるマイナスの視線に気付きもせずクラウドが筆を置き立ち上がった。フッと完成したらしい原稿に息を吹きかけ、満足そうに笑う姿はあくまで爽やかなんだが。
「セフィロスに飯食わせて、これコピーして・・・・・ザックス、そういや何しに来たんだ?」
このタイミングでそれを訊くか。だからイヴだってのに彼女が海の向こうで暇なんだよ、と低音で返すと有り得ないくらい明るい笑顔になりやがった。
「じゃあ午後は製本手伝ってくれないか。俺はやることあるから」
「・・・いーけど。まだ漫画描くのか?」
「いや、原稿はこれで終わりだけど・・・・いい加減この人の相手しなきゃいけないから」
『しなきゃいけない』とか嫌々みたいな言い回ししてもそんな嬉しそうな顔じゃ全然キマってないからね。慈愛に満ちた目で寝顔を見るな、頬に指を這わすな!偏見もないしこんなことで友人を遠ざけたりはしないが目の前でホモられるとさすがに困る!

「あの父親、結構過保護でな。こんな風に年末セフィロスが家に入り浸っていられるのはエアリスとティファのお陰かな」
随分放って置かれていたんだろう、やっと眼を覚ましたセフィロスが唸りながらのろのろと起き上がるのと、それに(必要も無いのに)手を貸すクラウドを見ながら、俺は人質は二人の方だろうなと思いながら彼女達の無事を祈った。ついでに数日後コミケとやらに連行されるであろうセフィロスの無事も、まあちょっとは。






end.








クラウドが描いてる同人誌は健全ほのぼの本。先に入稿したオフ本は成人指定。