数年前父に仕置きをくらう位派手な喧嘩をして以来、僕とディオの仲は修復した。ディオが僕に突っ掛かってくる事はなくなったし、寧ろかなり友好的だ。僕は友人を取り戻し、ディオも以前とは違い子分のように扱っていた取り巻き達と普通の友人として接している。
一つ上の学校に通うようになってからは二人の関係はますます落ち着いてきた。
学校でのディオは、大人しい。
一人で本を読んでいる時や講義を受けているほんの一時、ふと見せる表情は静謐で、見るものに近寄り難いような印象を感じさせる。彼は時々、一枚の絵の中に居るみたいに現実離れして見える。
成績は頗る良く、授業態度も先生からの評価も高い。スポーツもソツなくこなし、写生会では優秀賞を取る。歌を歌わせれば思わず立ち止まって耳を澄ませたくなるし、彼が朗読する詩はどんなありふれた退屈な詩でも飛び切り素晴らしい作品のように思えてしまう。そんな彼に引き寄せられる者は多い。
しかし、友人は沢山居ても、ディオはいつだって僕を最優先している気がした。
そういうのは、ちょっと気分の良いものだった。
放課後の教室で、僕達は自然に帰るタイミングを合わせるように鞄を持ち上げ椅子から立ち上がった。ディオに声をかけようとしたその時、ふと視界の真ん中をクラスメイトが横切った。
彼はそのままディオに近づくと、本を差し出して何か言った。ディオも一言二言言葉を返す。彼はクラスが同じとは言えあまり目立たない男で、僕は口を利いたこともない。話に混ざれる雰囲気でもないので、手に持った鞄を再び机の上に戻して、僕はちょうど話しかけてきた友人と無駄話をしつつ二人の用が済むのを待つことにした。
途端、何か硬い物を打ち付けたような音が響いた。振り返ってみると、ディオ達の間に件の本が落ちていた。
男が渡し損ねたのかディオが受け取り損ねたのかは知らないが、兎に角男の方が本を拾ってディオにしきりに詫び始めた。そこでまた何度か言葉の往復。僕は視線を友人に戻した。
背中越しに耳を澄ますと、彼は自分は意思の疎通が苦手なのだというようなことを小声で弁解しているようだった。ディオは無言で男の手から本をひったくると、すたすたとこちらに歩いてきた。
「帰るぞ、ジョジョ」
「彼は・・・」
いいのか、と聞き掛けて、僕は口を噤む。つまらなそうに髪をかきあげるディオは無駄な時間を過ごしたとでも言いたげで、その瞳にはやる気がない。僕は帰ろうか、とだけ言って笑ってみせた。
教室を出る直前、ディオの肩越しに先ほどの男が僕に暗い目を向けて未だ佇んでいるのが見えた。僕は咄嗟にディオの肩を引き寄せて、間近に迫った彼の頬を撫で、「睫毛がついてるよ」と嘘を吐いていた。
end