[ 一品コース ]







今、私の前には一枚の皿がある。

丸く大きな皿だ。周りをぐるりと明るい色合いの花の絵が取り囲んでいる。
模様の一部と化している筆の跡が生々しい。
皿の上に置かれるべき料理は未だ到着していない。

台所から油の跳ねる音や陶器の触れ合う音、そして小さな足音が聞こえてくる。
忙しなく台所を行き来てしているであろう彼女の姿を一目見ようと身を乗り出してみたが、無粋な壁に阻まれてそれは叶わない。私は皿に向き直る。

僅かに凹んだ中央は真っ白に輝き光っている。
私が左に動くと、光は右に滑る。私が右に動けば、左に。

皿の両脇にはフォークとナイフ、大小のスプーン。
四つに割れたフォークの先は、口内を傷つけぬようやや丸められている。
私の家には鋭く尖ったフォークが幾つか用意されている。まるで悪魔の尾の先端の様に。・・・勿論食事をする為のものではないが。

台所から喜色に満ちた嬌声が漏れ聞こえた。
料理が完成したようだ。
これからこの純潔の皿に、沸々とたぎるソースが点々と敷かれ、香ばしい匂いにくるまれた彼女の”愛情”が据え置かれるのだと思うと・・・ただの皿一枚に、親近感すら湧いてくる。
私は昂揚した。

揚々と、『既に皿に盛られた』料理を手に歩いてくる少女は、天使のような笑みをたたえていた。
私は確かに雲行きが怪しくなったのを感じた。

「さあ、召し上がれ♪」

温かな湯気をくゆらせて、二枚の皿は重ねられた。


全てを察した千影は、短い付き合いだったな、と心の中で新参者の下敷きとなった皿に別れの言葉を告げ、ゆっくりとフォークを手に取った。
白雪は妙に緊迫した空気に首を傾げつつ、デザート用の皿を冷やしに台所へと戻った。














コース料理メインのレストランへ行くと、あらかじめ席に食器がセッティングされてますよね って話。
なんかうちの千影ってバカっぽいな・・・・・・・・