[兄妹]








先日返しそこなったお弁当箱を手に白雪の家を訪れると、意外な組み合わせに迎え入れられた。

白雪と、千影と、亞里亞だ。三人はごく自然にテーブルについて、残りの椅子を僕に勧めた。白雪はすぐに席を立った。

千影と亞里亞の前には食べかけの料理が置かれていて、そういえば今がお昼時だと思い出す。それを言うとお茶を持ってきた白雪が嬉々として僕の分の食事を作りにキッチンに戻った。

思いがけず自宅で済ますよりはるかに美味しい料理にありつけることに頬を緩ませながら席に着くと、ちょうど二人がフォークを置いた。

ごちそうさま、と声がはもる。ずいぶん小さな声だった。

「二人とも、なに食べてたの?」

「豚の脂肪」

「カルシウム・・・」

二人の答えはえらく簡潔だ。そしてだいぶぶっ飛んでいた。

僕が困惑をそのまま顔に出すと、亞里亞が少し気まずそうに口を開いた。

「亞里亞ね、白雪ちゃんに、お菓子ばっかり食べちゃだめ、って言われたの」

僕は、確かにそうだね、と返したけど、もっと豚の脂肪についての説明が欲しいと思った。

「妙な言い方やめてください!豚肉の角煮!ですの!」

両手一杯に料理を抱えて戻ってきた白雪が、ぷりぷりしながら補足してくれた。

テーブルに春雨スープ、温野菜のサラダ、そして箸を立てるだけでサクッと音がしそうな竜田揚げが並べられる。

今日は一段と手際がいいね、と言うと、白雪は全身で喜びを体現した。いやーん、にいさまったら!

白雪はもう一度キッチンに戻って、お皿を器用に三枚持って戻ってきた。ファミレスでバイトしたら重宝されそうだなと思う。

やや大きめの揚げパンを自分の前に、それより二回りほど小さいものを千影と亞里亞の前に配膳した。どうやら白雪だけ何も食べていなかったみたいだ。

「・・・これ・・・デザート・・・?」

「その前に爪楊枝はないかな」

魚の小骨でも食べさせられたのかい千影は。総合的に見てだいぶ脂っこい昼食だね亞里亞。

でも二人とも、たまにはそういうのもいいんじゃない。

亞里亞に三時のおやつはケーキだからとフォローを入れたり千影の為に爪楊枝を取りに行ったりする白雪を眺めつつ、サラダを頬張る。忙しそうだとは思うが、経験上、下手に手を出すと余計手間をかけるので止しておく。ああ、このドレッシングすごくうまい。

三人して揚げパンを頬張るさまはとてもほほえましかった。なんだか心がほんわりしてしまう。出来るだけ手を汚さないようにしているのが可愛さに拍車をかける。

「あ、そんで千影はなに食べてたの?」

僕が再度尋ねると、三人は揃って目線だけを上げた。そしてまた白雪が答えてくれる。

「千影ちゃんはカルシウム不足なんですの!」

だから怒りっぽいんですの!

千影はなんだか居た堪れない風情で、黙ったまま揚げパンに噛り付いた。なんだか二人の意外な位置関係を垣間見た気がする。

そんなふうにして食事が終わり、僕はお弁当箱を返して白雪の家を後にした。

結局千影が食べた料理は分からなかったけど、カルシウムというのだから、まあ、なんとなく、想像はついた。